当ブログで以前、ベルト・モリゾの生涯について”朝ドラのヒロインになりそう”と書いた事があるのですが、ドラマならばライバルを登場させて物語を盛り上げたりすることもありますね。
朝ドラだって実在する人物を主人公に据えても物語的にはフィクションな部分も少なくはないのではと想像します。
ベルトさんの人生物語にもライバルが登場します。実在してます。
まぁ互いの人生が深く交わることはなく、むしろ直接的なやりとりさえなかった様にも見えるのですが。
ベルトさんと女好き絵描き
海外ではどうなのかは知りませんが、その"ライバル娘"について日本語で書かれている本を見つけられないのでベルト・モリゾの伝記に記載されている内容からの紹介です。
完全にとまでは言いませんが、ほぼ主人公目線ですねえ。
さらに言えば、”女流の画家”として、絵や技量に譲れない信念を戦わせたのかと言えばそうではなく、・・・男、・・・エドゥアール・マネ とのポジション争いの様な印象を受けるのです。
ベルトさんが姉エドマと共に、職業画家を目指してストイックに絵に打ち込んで過ごす日々、ルーブル美術館で模写に励んでいた時マネを紹介され、それ以来モリゾ家とマネ家は親しく付き合う様になったそうです。
マネと知り合った翌年、共に絵に励んだ姉エドマは結婚し絵筆を折ります。
ベルトさんは心の支えを失う心境になったそうです。
そんな時に新たに心の支えとなったのがマネの存在だったそうです。
知り合った年にすでにマネのモデルを務めていたベルトさん。
マネもベルトさんをモデルに11点の油彩画の他、全部で14点の肖像を描いてます。
様々な女性がマネのモデルを務めてますが、マネの絵で描かれたモデルさんで登場回数最多はベルトさんなのだとか。
この女好きの浮気者絵描きに対して恋愛感情を抱いていたのか、それを示す手紙や手記などはない様ですが、二人は特別な感情を抱いていたと言われてます。
そんな時期にマネのアトリエを頻繁に訪れるお嬢さまが登場します。
その娘の名はエヴァ
エヴァ・ゴンザレスは1849年生まれでベルトさんの8歳年下で、この時20歳。
若く優美な自信家、甘やかされて少々の我儘を許されて育った、生粋のお嬢さまですね。
モナコ出身の父は文芸家協会会長で、冒険小説を執筆する文筆家で、母は音楽家と、エヴァは芸術家の家庭に生まれたからでしょうか、芸術の才能にも恵まれたようです。
シャプランの元で学び、パステルと水彩で絵を描いていたのですが、油彩を始める為の新たな師匠を求めていたようです。
そんな時、母親の知人であるステヴァーンス家の夕べでマネと出会い魅了され弟子にしてもらったようです。
マネの女性観とは、”友人で、愛人で絵のモデル”と言われてるそうです。
エヴァを弟子にしたのも、若い美人が大好きなだけだったのではないかと思われます。
実際エヴァはマネのモデルを務めてます。
どうやらエヴァはかなりマネに魅入られたようで、マネの傍らで絵を書くことを望み、どんな時もマネの判断に従って行動していたそうですからマネも気分はいいでしょうね。
エヴァの絵画作品は師匠マネの絵を彷彿させます。
ベルトさんはやきもちをやく?
裕福な芸術一家に生まれ絵画に天性の才能を持つ自信家、溌剌として外交的なエヴァお嬢さまは、更に言えばこの頃若い。
チートですね。(ずるいくらいなんでも持ってる、という意味で)
対照的にベルトさんは内向的で常にストイックに批判的に自分を追い込む性格のようです。
絵の才能はもちろん持ち合わせてますけど(結婚を期に筆を折った姉の方が才能があったと言われているようですね)、努力と葛藤で大成した印象も感じます。
マネの関心は、”画家としての女”には無く、専ら”整った顔立ちの若い女”なのでしょう。
そういう意味ではマネにとってはベルトさんもエヴァも”整った顔立ちの絵を描いている若い女のモデル”でしかないのでしょう。
ベルトさんがマネに対して特に思うところがなければ、マネが女性をどう見ているのか、自分より若いお嬢がマネに接近しようが自分には関係のない事でしょうね。
でもどうやら、かなり意識していたみたいなのです。
マネは”画家エヴァ”の肖像画を制作します。
ドレスを着てパレットと絵筆を持ち画架の前に座る若い女性の姿は、絵の中のお嬢さまが絵描きであることを永遠に知らしめる肖像となるでしょう。
まぁ、何度もマネ作品のモデルを務めたヴィクトリーヌ・ムーランに様々な”コスプレ”をさせている感じを連想しますが。
それでも何度となくマネのモデルを務め、描かれたベルトさんには”画家ベルト”は要求されなかったシチュエーションです。
ベルトさんは屈辱を感じたようです。
この肖像画「エヴァ・ゴンザレス」(1870年 ナショナル・ギャラリー ロンドン蔵)の制作については、マネはこの若く美しいエヴァの顔立ちを捉えることに苦戦して40回以上の描き直しをしたそうです。
そんな状況をベルトさんは密かに喜んだそうですが溜飲を下げることにはならないようです。
姉エドマに宛てた手紙に釈然としない心情を綴ってます。
「マネは私にエヴァをモデルに起用したらと提案してきます。彼女は辛抱強くマネに従える様ですが、私には出来ません」
ある日のマネ家での夕べでの出来事についても、
「初めから最後までゴンザレス嬢に向けた賛辞ばかり。肖像画の進捗は進展がないようで、またしても折角描いた顔面部分は消しちゃったと陽気に語るのです」
姉は妹に寄り添う返事を送ります。
「マネはエヴァを過大評価してる、あなたには彼女と同じように才能があると思います」
マネ家の夕べからしばらく経って、今度はモリゾ家の夕べに妻と連れ立ってマネがやってきます。
マネはアトリエでベルトさんの作品を眺めて褒め称えたそうです。
「びっくりするくらいの、これ以上ないくらいの賛辞を贈られて満足してます。私の絵は明らかにエヴァの絵より優れていると思われます」
とエドマに伝えます。
褒め言葉に素直に感動をする反面、ベルトさんは知っています、
「マネは率直な人だから褒め言葉に嘘はないでしょうけど、『マネは自分が好きな人々の描いた絵を上手い!と思うんだよ』とファンタンが言ってたことを思い出しました」
”ベルトさん”登場人物紹介
画家ベルト・モリゾの人生を朝ドラ風の物語と仮定して、画家たちの絵画で”登場人物”モリゾ家の人々をご紹介します。
ベルトさん ー ベルト・モリゾ
モリゾ三姉妹の末娘。子供の頃、母の提案で三姉妹で父の誕生日に贈る絵を描いたことをきっかけに画家を目指す。女性が職業として絵描きになることが現代より難しい時代に、印象派の画家仲間の中心的存在になってゆく。性格は溌剌さも爽やかさも微塵もないストイックな頑張り屋さん。
エドマ姉さん ー エドマ・モリゾ
モリゾ三姉妹の次女。妹ベルトと共に画家を目指す。エドマとベルトはお互いを”自分自身の半身”と思えるくらい姉妹以上の繋がりを感じているが、ある意味では冷徹な面のある妹とは違い、美男の海軍将校の熱心な口説きに根負けして結婚、絵筆を折る。
ママン ー 母コルネリ・モリゾ
上流階級の家柄出身。絵を描くことに熱心なエドマとベルトを始めは応援していたものの、エドマが結婚した頃からベルトにも結婚してもらいたい気持ちを憚らなくなる。
イヴ姉 ー イヴ・モリゾ
モリゾ三姉妹の長女。エドマとベルトの固い絆に比べると長女イヴと妹たちとの関係は少々冷淡だが、夫に先立たれたイヴが亡くなった後、ベルトは残されたイヴの二人の娘を引き取り自身の娘ジュリーと4人で暮らすことにするのはベルト晩年頃のこと。イヴの長女ポールには才能を認めて、ジュリーと共に絵画の指導を行う。
”ドラマ ベルトさん”実際に映像化されたら印象派の画家を中心に「芸術家アベンジャーズ、アッセンブル!」みたいになりそうです。
最後にもう少しエヴァ・ゴンザレス のことを。
ベルトさんはマネに接近してくる(もしくはマネが接近していく)女性の存在に少々やきもきしていたようですが、エヴァの方はどんな気分でいたのでしょうね。
エヴァにしてみればベルトさんのことは、これっぽっちも気にかけてなかったのではないか、むしろ認識さえしてなかったのかもと想像するのですが。
1883年ベルト・モリゾ42歳の年、4月30日エドゥアール・マネが亡くなり、その6日後にエヴァ・ゴンザレス も34歳の若さで亡くなります。
死因は塞栓症、版画家アンリ・ゲラールと結婚して第一子の男の子を出産したばかりでした。
無責任で噂好きな世間は、師匠マネとの恋愛関係などの"運命"を語ったそうです。
状況的には直接の死因との因果関係はないを感じますが。
カリスマ性を持った女好きの画家は様々な女性を魅了し(マネの人間的魅力に魅了されたのは女性ばかりではなかったようですが)関係を持ったようですが、エヴァも恋情のような気持ちをマネに抱いていたのでしょうか。